« オススメ本の紹介:音楽の聴き方/岡田暁生著 中公新書 | トップページ | 中古&廃盤CD・レコードセール 10月7日(金)~10月10日(月・祝)まで新潟古町六番町モールにて開催! »

2011/09/17

オススメ本の紹介:ジャズ・ミュージシャン3つの願い/パノニカ ドゥ コーニグズウォーター

マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の願いごとは「白人になることだ!」った。

1960年代、パノニカ・ドゥ・コー二グズウォーター(Pannonica de Koenigswarter 愛称ニカ)は、300人のジャズ・ミュージシャンに「あなたの3つの願いごとはなに?」と質問した。ジャズ・ミュージシャンの願いごとと、ニカ自身が撮影したミュージシャンたちのスナップ写真。こんなジャズ本は見たことがない。

ジャズ・ミュージックの抽象性に対して、 ジャズ・ミュージシャンたちの願いごとが非常に具体的・現世的なのが面白い。音楽(演奏)、愛(とセックス)、お金、仕事の現場、健康、家族と、身の回りに関することばかりである。ジャズ・ミュージシャンが、なによりも「演奏をする人(=プレイヤー)」であることを一義的に考えていたからではないか。ロック・ミュージシャンなら何と答えたのだろう、ジョンやポールなら、ミックやキースなら、そんなことを想像するのも楽しい。

世界を代表する富豪であるロスチャイルドの家系に生まれたニカは、超のつくセレブであった。まだ人種差別の厳しい時代、黒人が多いジャズ・ミュージシャンのよき理解者、親友、パトロンとして、彼ら彼女らをおおいにサポートした。彼女は、チャーリー・パーカー(Charlie Parker)セロニアス・モンク(Thelonoius Monk)の最後を看取ったことでも知られている。彼女の住まい(通称「キャットハウス(Cathouse)」)はジャズ・ミュージシャンのたまり場だった。そこでの写真に写るジャズ・ミュージシャンたちは、みなリラックスした表情をしている。それはニカとの関係性を反映したものなのだろう。人種や生い立ちを越え、ジャズを理解し愛するものどおしの、本当の友情に結ばれた関係。当時、白人に見くびられないように、服装と物腰を崩すことなく、知的でクールな印象を与えようとしてきたジャズ・ミュージシャンたちが、ニカの写真の中ではシャツの襟を緩め、穏やかに微笑んでいる。

この本で300人のジャズ・ミュージシャンの素顔に触れてみてほしい。音楽史におけるジャズやジャズ理論についての解説、チャーリー・パーカーマイルス・デイヴィスなど数人の偉大なジャズ・ミュージシャンについての自伝や研究の書籍はこれまも多く出版されてきたが、本書のように、ある時代のジャズ・ミュージシャンの、親密で温かな私的な関係の記録は目にしたことがない。300人の短い言葉とスナップ写真から、ジャズという音楽の本質が垣間見えるような気がした。

パド・パウエル(Bud Powell)のほか数名のミュージシャンが「日本に行きたい」と語っている。当時のジャズ・ミュージシャンにとって、日本はどのような国に見えていたのだろう。自分自身もピアノを演奏するボクは、穐吉(秋吉)敏子の願いごとに最も深く共感した。

「心のなかにあるものを、すべて演奏できるピアニストになりたい。もしその願いが叶ったら、次に2番目と3番目の願いごとが生まれるはずだわ」。

これはジャズに限らず、ミュージシャン全ての願いかもしれない。

丸山桂(SOUND FINDER

パノニカ ドゥ コーニグズウォーター / ゲーリー ギディンズ / 鈴木孝弥/ジャズ・ミュージシャン3つの願い ニカ夫人の撮ったジャズ・ジャイアンツ

9月 17日, 2011 本の紹介 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/142541/52740923

この記事へのトラックバック一覧です: オススメ本の紹介:ジャズ・ミュージシャン3つの願い/パノニカ ドゥ コーニグズウォーター:

コメント

コメントを書く